食事は「薬の代わり」ではなく、治療のひとつ ― Food is Medicine という考え方

2026/9/23

「体にいいものを食べましょう」

よく耳にする言葉ですが、忙しい毎日の中で、毎回の食事を理想通りに整えるのはなかなか難しいものですよね。

一方で、私たちが毎日口にするものは、将来の健康だけでなく、今感じている疲れや体調にも深く関わっています。

近年、海外では「Food is Medicine(フード・イズ・メディスン)」という考え方が注目されています。

直訳すると「食は薬」。

もちろん、食事が薬の代わりになるという意味ではありません。「食事や栄養を、病気の予防や治療、健康づくりの大切な要素として捉え、医療の中にも取り入れていこう」という考え方です。

今回は「Food is Medicine」とはどのような考え方なのか、そして毎日の食事と健康について、できるだけわかりやすくお伝えしたいと思います。

Food is Medicine とは

では、具体的にはどのような考え方なのでしょうか。

私たちの体は、約37兆個もの細胞からできていると推定されています。そして、その一つひとつの細胞が元気に働くためには、エネルギーやさまざまな栄養素が必要です。

たんぱく質、脂質、炭水化物、ビタミン、ミネラルなど、日々の食事からとる栄養素は、エネルギーになるだけでなく、筋肉や骨、血液など体をつくる材料となり、ホルモンや神経などの働きを支えるためにも欠かせません。

つまり、毎日の食事は、単にお腹を満たすだけではなく、私たちの体をつくり、働かせるための大切な土台でもあるのです。

だからこそ、「何を食べるか」「どのような食生活を続けるか」は、将来の生活習慣病の予防だけでなく、日々の健康を考えるうえでも大切です。

Food is Medicineでは、特定の食品を「薬」のように考えたり、単に「体にいいものを食べる」ことだけを目指したりするのではありません。

一人ひとりの健康状態や生活環境に合わせて、食事や栄養を、医療や健康づくりの一部として活かしていく。

それが「Food is Medicine」の基本的な考え方なのです。

食事パターン全体が大切

大規模な研究では、地中海式の食事や、野菜・果物・全粒穀物などを中心とした食事パターンを続けている人ほど、心臓や血管の病気、2型糖尿病などのリスクが低い傾向にあることが報告されています。

ここで大切なのは、「〇〇を食べれば健康になる」という単一の食品ではなく、日々の食事全体のバランスが重視されているという点です。話題の食品に頼るよりも、毎日の食事を少しずつ整えていくことが、結果的に体を支える土台になります。

「何を食べるか」だけでは決まらない

海外では、食材の提供や、病気に合わせて栄養の専門職が設計した食事を届ける取り組みも行われています。一定の成果が報告されている一方で、食事の質は改善したものの、期待されたほど健康状態の改善がはっきりしなかった研究もあります。

こうした研究からわかってきたのは、食事の効果は「何を食べるか」だけでなく、

・自分で料理ができる状況かどうか
・忙しさや体調、暮らしの環境
・無理なく続けられるかどうか
・そばで支えてくれる人がいるかどうか

といったことにも大きく左右される、ということです。

正しい食事を「知っている」ことと、それを「続けられる」ことの間には、思っている以上に距離があるのだと思います。

「誰と食べるか」も、意外と大きい

食事というと、つい「何を食べるか」に目が向きますが、「誰と食べるか」も、実は健康と深く関わっています。

日本の大規模な研究では、ひとりで食事をとることが多い高齢の方は、誰かと一緒に食事をとる方に比べて、気分が落ち込みやすい傾向があることが報告されています。また、ひとりでの食事が続くと、食べる品数が少なくなりやすいことも指摘されています。

これは高齢の方を対象とした研究ですが、ひとりの食事が増えやすいのは、忙しく働く世代も同じかもしれません。

ひとりだと、つい簡単なもので済ませてしまう。誰かと一緒だと、自然と品数が増え、ゆっくり味わい、会話も生まれる。思い当たる方も多いのではないでしょうか。

とはいえ、毎回誰かと食卓を囲むことは、現実にはなかなか難しいものです。生活の時間が合わない、体調やお口の調子が気になって人前で食べたくない、そもそも一緒に食べる相手がいない——事情は人それぞれです。

ですから、「必ず誰かと食べなければ」と気負う必要はありません。週に一度、友人とランチをする。月に一度、家族と食卓を囲む。それだけでも、食事の時間は少し違うものになります。

食事は、栄養をとる時間であると同時に、人とつながる時間でもある。そう考えると、食事の見方も少し変わってくるように思います。

うまくいかないときこそ、一緒に

体調が良いときは、食事も整えやすいものです。

でも、疲れがたまっているとき、忙しさに追われているとき、気持ちが沈んでいるときには、食事はどうしても後回しになりがちです。

そんなときに「できていない」と自分を責める必要はありません。

今のあなたの状況で、無理なくできることは何か。調子の良いときも、そうでないときも、その一歩を一緒に考えていくことを、私は診療の中で大切にしています。

ひとりで抱えず、必要なときは専門家に相談を

食事や栄養の分野は幅広く、体の状態やお持ちの病気によっては、より専門的な対応が必要になることもあります。

そうしたときは、管理栄養士や専門の医療機関と連携しながら、その方にとって最適な形をご提案しています。

当院で対応できることと、専門の先生におまかせしたほうがよいことは、その場で正直にお伝えします。遠回りをさせないこと、それも診療の大切な役割だと考えています。

おわりに

食事は薬の代わりではありません。

けれど、毎日のいちばん身近なところで、私たちの体を支えてくれているものです。

当院では、血液検査をもとに栄養状態を確認する「栄養解析」も行っています(自由診療となります)。ご自身の体の状態を知ることが、食事を見直すひとつのきっかけになるかもしれません。検査内容や費用については、こちらをご覧ください。

食事や栄養のことで気になることがあれば、どうぞお気軽にご相談くださいね。

あなたらしく続けられる形を、一緒に探していきましょう。


参考文献

・Seligman HK, et al. Circulation. 2025;152(4):e32-e46.
・Mozaffarian D, et al. J Am Coll Cardiol. 2024;83(8):843-864.
・Wang P, et al. Nat Med. 2023;29(3):719-728.
・Doyle J, et al. JAMA Intern Med. 2024;184(2):154-163.
・Tani Y, et al. Age Ageing. 2015;44(6):1019-1026.

※本記事は一般的な医学・栄養学情報の提供を目的としたもので、個別の診断や治療に代わるものではありません。持病のある方や治療中の方は、食事内容を大きく変える前に主治医にご相談ください。